いつか何にも囚われない世界へ

平坦な道をひた走る。
人影はまばらで、時折対向車とすれ違う程度だ。
学園の縛りから解放され、最近は翼が運転する車で様々な場所へ行くのが楽しくてならなかった。
道が分からなくなってもカーナビが案内してくれる。
ステレオから流れる音楽のリズムが心地良い。
少しだけ開いた窓から吹き込む春風が頬をなでる。
暑くもなく寒くもないこの季節が昔から好きだった。

後部座席の我が子を見遣る。
3歳になり、近頃は好奇心が旺盛で何にでも興味を持つようになった。
その反面手を焼くことも多いが、学園に入った頃から抱いていた、「家庭」への憧れが強かったためか今の生活には満足している。
さっきまで目まぐるしく変わる景色に歓声を上げていたのに、気が付けばはしゃぎ疲れたようで眠っている。
その寝顔を見ていると思わず頬が緩んだ。

この子がアリス持ちでなければいいと何度も祈ったけれど、それは叶わない願いのようだった。
学園へ入学すれば優等生にならない限りは大人になるまで敷地外へ出ることはままならない。
両親共にアリスの子供が学園に目をつけられない筈はない。
逃げ続けるのにも限界があることは分かっている。

学園では教わらない大切なことを沢山教えたかった。
色々な風景を見せたくて、週末は必ず車で何処かへ出掛けることに決めた。
いつか離れなければならなくなる、だからこそ充分過ぎる程に精一杯愛してやりたかった。



思えば、自分自身も学園に入ったのは3歳の頃だった。
入学する以前のことはほとんど記憶にない。
両親も幼い頃の自分を愛してくれていたのだろうか。
翼とは入学してすぐ出会って、歳もクラスも能力別授業も同じだった。
あたしの右側に翼、翼の左側にはあたし、これがいつの間にか指定席みたいになっていた。
あまりにも当たり前過ぎて、そうじゃなくなる事なんて考えていなかったんだ。
あの日翼の行方が分からなくなって初めて、あいつがどれ程大切な存在なのか分かった。
それがただの友達としての感情ではないことに気が付くのにそう時間はかからなかった。
会いたくて、沢山話したくて、手を繋ぎたくて堪らなかった。
その時はまさか結婚するなんて思ってもみなかったけれど。



「そういや今日はどこまで行くつもり?」
「着いてからのお楽しみー」

翼が悪戯っぽく答える。
こんなところは昔から変わらないな、そう言って笑った。
暫く走って辿り着いた先、視界に飛び込む景色には見覚えがあった。
何処までも続いていそうな海や白い砂浜が広がっている。

「ここって、卒業してから初めて一緒に来た海だったよね」

あの日初めて海を見て、感動してずっと見つめていたのを覚えている。
学園の敷地から出たことのなかったあたしには、海がずっと続いているなんてスケールが大きすぎてあまり実感がわかなかったけれど。

「こいつにも見せたいと思ってさ」

翼がそう言いながら我が子の頭をくしゃくしゃと撫でる。
我が子もそれに気がついて目を覚ましたようで、一面に広がる海に瞳を輝かせた。

「海だよ」
「うみ?」
「この先には遠くの国があるんだよ」
「わあすごーい!いきたいなあ」
「大きくなったら行こうな」
「うん!やくそくだよ!」

車を降りて駆け出し、砂浜で遊ぶ姿を見て翼と目を見合わせて笑った。
あわよくばこの幸せが、1分1秒でも長く続くことを願わずにはいられなかった。






久しぶりの更新ですね。
去年の9月ぐらいに更新再開するとか言っておいて全然してなくて申し訳ないです。
定演で忙しかったなんて言い訳にすぎないですよね、ごめんなさい。
未来小説で子持ち設定ってことですが、子供の名前を読んで下さる方の想像にお任せしようと思ったのであえて書いてません。
両親がアリスの場合って子供は2つアリス持つことになるのかな。
蜜柑の場合はそうだけども。
翼美咲原作であまり進展なくて欠乏症ですw
早くくっつけこのやろー 笑


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