傘の下

数刻の間に雨が降りだしていたようだった。
灰色の雲が太陽を隠し、外気の温度が徐々に低下していくのが分かる。
生憎傘は持ち合わせていない。
暫く待っていようかとも考えたが、いつ降り止むかも分からない雨をずっと眺めているのも面倒だ。
偶には雨に濡れるのも悪くはないだろうと思い直した。

屋外へと足を踏み出せばしとしとと降り続く雨が頬を伝う。
心に溜まった淀みのようなものが洗い流されるようで心地が良い。
隊舎へと続く道をのんびりと歩く。

雨に濡れた街は心なしか何時もよりも静かで。
絶え間なく続く雨音以外は何も聞こえることはなかった、けれど。

次の瞬間、雨の音の間を縫うように響く声に気が付いた。
声がした方向に振り返ると幼馴染である十番隊隊長がそこにいた。
彼は身長に似合わない大きな傘を差して立っていた。

「日番谷くん!」
「雛森、お前傘も差さないでどうしたんだよ」
「雨降ると思わなかったから忘れて来ちゃって」

馬鹿にされそうで恥ずかしかったが今更弁解する余地もない。

「ったく。風邪引くぞ、入れ」
「ありがとう、ごめんね」

差し出された傘の半分に入る。
そういえば潤林安にいた頃もよくこんな事があったな、等と柄にもなく思い返した。
昔なら何ともなかったのに最近は何だかやけに緊張する。
頬が上気していくのが分かって、ばれないように俯く。
ふと、世界に2人きりしかいないような錯覚に陥りそうになる。

昔は隣にいるのが互いしかありえなくて、それはいつまでも変わらないと思っていた。
けれど彼が隊長になってからしだいに開く距離を感じずにはいられなかった。
だからこそこんな一瞬一瞬が大切に思えて。

もう少しだけ雨が長引くことを祈った。






何年か前に書いた日雛小説を発見してそれを元に書き直しました。
雨ネタ好きです^^
ていうかまず瀞霊廷って雨降るのかなー。そりゃ降るか。
今度流魂街にいたころの日雛も書きたい。


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